胃ろう

症例・事例一覧

胃ろう

はじめに

「食べる」ことは、人間にとって基本的な要求のひとつである。食欲低下や摂食・嚥下機能の低下などにより、やむなく経管栄養になった高齢者にとって、生命維持のための栄養を取ることはできるが、その人らしい生活を送ることは難しくなる。

当施設では、「誤嚥性肺炎予防の口腔ケア向上」を目的に摂食機能訓練を取り入れ、口腔ケア・舌の運動訓練・嚥下トレーニングなどの間接訓練を主とした関わりの中で、胃ろうの方が、経口摂取可能となった方が、たくさんおられます。

入居者様紹介

75歳 女性 【要介護度4】
レビー小体型認知症 パーキンソン病 腰椎圧迫骨折 食道裂孔ヘルニア

夫と二人暮らし。2000年にパーキンソン病と診断され、治療を説明されるも当所より夫と本人自身もこの事については、受入れられず、処方された治療薬もきちんと服用せず日常生活に、それ程不自由さがなかった為、薬を拒否。病気事態を認め、治療薬をしっかり服用しはじめたのは、ここ5年程である。今から1年前、長女宅に近い、有料老人ホームへ入所。平成22年2月に圧迫骨折で寝たきり・嚥下不良となり入院。5月に夫、他界後、徐々に調子は崩れはじめた。鼻腔チューブより8月に胃ろう造設となる。

身体状況

歩行・移動方法:H23.7/22入院時よりベッド上のみ。ベッドUPは可能。ストレッチャーにて移動する。

両下肢:筋力なし。屈曲、伸展は可能。尖足傾向。口腔ケア時間のみ90°UPできる。大きな声でゆっくりはっきりと伝えると意思疎通可能。言語はハッキリしないことが多く、不明暸な為、聞き取りにくい(日によっては言葉がハッキリすることもある)寝返り・起き上がりは全介助。舌根沈下ぎみの為、仰臥位は不可。皮膚がとにかくうすく内出血しやすい。

当施設の介護

平成23年9月

午後に豊中市の病院より、当施設到着。車中、不安気に手で何かをつかむように伸ばされたり、車外からの陽に目を向けたりと目を閉じることなくキョロキョロしておられた。

施設到着後は職員に挨拶されると笑顔を見せる。自室ベッド臥床後は静かに目を閉じられる。

お疲れになったのか入眠されるもスタッフが「はじめまして」と声かけに行くと開眼され「はい」と返事くださる。

昼食も、ゆっくり時間をかけ注入。気分不良やむせ込み等も見られず良好です。

娘さま、帰られたあとは、淋しいのか涙ぐんでおられましたが、職員が入れ替わり、立ち替わり挨拶にいくと徐々に笑顔も見られる。夕食の注入時にはゴロンやむせ込み等も見られず食事前後の吸引も少量の白色粘調痰回収。

胃ろう増設後の初めてのPEG交換の為、病院受診(初診)。

午前中で眠気も強く入眠されていました。次回PEG交換の時には「念の為、一泊入院しましょうね」と先生に言われると悲しそうな表情となり「またか…。」と言われる。PEG交換、初回の為、内視鏡使用し交換。安全を考え一泊二日の入院となる。

病院お迎え。

「早く退院できて良かったですね。」と声をかけると「ホンマやね〜」とうれしそうに言われ、「交換する時、痛くなかったですか?」と聞くと「痛かったぁ〜」と顔をしかめて言われる。

当施設内サービス担当者会議

「歯科衛生士より…状態及び対応:口腔内乾燥(開口呼吸の為)口腔ケア・管理・リハビリ・舌、粘膜マッサージ行う。ジェルにて保湿マッサージを1日3回行う。

排尿量多い為、2時間毎にケア行う。褥瘡予防の為、ケア毎に体位変換。

舌根沈下気味の為、体位変換は左右のみ行う。

機能訓練士による、両上・下肢の拘縮予防の為、可動域訓練 週4〜5回行う。

(両下肢の屈曲がきつい為、全身マッサージにて、足を伸ばす。1日15分程度)

生活リズムが安定するように、お声掛けをしながら、コミュニケーションを図り、本人からの発語を促し、ラジカセで音楽やラジオを聞いて頂き1日のリズム作りを行う。

平成23年10月〜11月

夜間ケア時「お下の交換に来ました」と声をかけると目を開けられ「ショーツでしょ?」と言い直され「交換して、きれいにします」と「ショーツのことでしょ」と話され時々うっすら笑みを見せられる。

ここ2日間の夜間は、独語多く又幻覚がある様子で、手を伸ばし、何かをつかむような行為や「早く引っぱって」と話されながらの言動が有り。結果6時まで入眠されず。

午前中四肢冷感あり、手や足をさすりながら「寒いですか?」と聞くと、くすぐったいのか?笑い出して「寒くないよ〜」と返答され、室温と寝具で調節し温め午後には冷感も消失し「ありがとう」と言って下さる。

「さっきリハビリの先生きたよ」と話され「足もよく動くようになった」とうれしそうに話される。

平成23年12月

当施設内サービス担当者会議

ベッド上での生活から1日1回(約30分)リクライニング車椅子に乗りフロアで過ごして頂く。散歩も取り入れる。

夜間ケア時に入った際に、起きておられ「最近は調子良くてね、昨日は散歩に行ってきたよ。」とうれしそうに話される。明日は朝からお風呂なので、昼からまた散歩に行って下さいと言うと「そやね〜でも明日はリハビリの先生おらんな〜」と言われよくわかっておられました。

今日も昼から散歩に行きますか?と聞くと、表情がパッと変わり、明るく「うん!行きます」と答えられ、ロビーのクリスマスツリーなど見られ、だんだん疲れてきたのか「眠くなってきた」と言われ、あんまり昼寝すると夜寝れませんよと伝えると「それが、昼寝ても夜も寝れるのよ〜」と笑って話される。

家族様、本人より「お腹がすく」と何度も言う事があり、又先生に話してほしいとの事。

舌根沈下気味にて、経口摂取は困難である事を説明する。

本日は車椅子で洗面台の前で口腔ケア時に自己にて歯ブラシを持ってケアをされ少量ではあるが、コップにて口先でのうがいをされる。

平成24年1月

朝食(注入食)に訪室、声かけにしっかりと開眼され「おはようございます」と挨拶を交わしたのち、いつもの様に、「今日は何の話をしましょうか?」と訪ねると「今日はねえ、色々と話しましょう」と話されたのち、娘さんをはじめ子供さんの話、旦那さまの話しを次々と話される。会話の中で「そうだ!ちょっと娘と電話で話せるかしら?」と話されたのですぐ連絡を取り後で電話で娘さま・息子さまと電話で話しをされる。ご自身の思いや考えをしっかりと話されスタッフが電話介助するも左手でしっかり受話器を持たれて話す。

当施設内サービス担当者会議

入居当初は舌根沈下気味にて体位変換左右のみだったが、最近では改善見られ両下肢の屈曲強くなってきている為、本日より仰臥位を含め体位変換を行い仰臥位の時はしっかりと足を伸ばす。

ご家族様より経口摂取はできないかとの希望あり。

大塚Dr往診…現在の状況報告。

痰は自己喀痰できており、吸引していない。

舌根沈下なく、調子良くお話しされている。

家族様は口から食べさせてあげたいと希望あり。

口から食べた場合のリスクについて説明し納得される。

許可あり、白湯(トロミ付き)数口から開始、看護師対応。

平成24年2月

朝食、自室にて白湯50ccにトロミをつけ約1年半ぶりの経口摂取。

「のどがひりひりするよ」と笑顔で話される。

甘くしましょうか?の声かけに「そのままで」と4回に分けて摂取されました。

のどに一口目通った感じは?と尋ねると「ピリピリっとしてのどの皮が引っぱられている感じがして、うるおっていい感じだよ」と詳しく聞かせてくれる。

むせ込みも無く、口の中はしっかりうるおっている。

「次は牛乳か果物がいいね」と本当に嬉しい表情をされ話されました。

朝のあいさつに訪室、顔色良好。笑顔で「あーあなたなの」と手を握られて話すうち、手を持ち替え、指相撲が始まる。

親指の力も強く「勝ちだね」と笑う。

時計の方向を見ているため「何時ですか?」と尋ねると「3時35分だね」と答えられる。「そうですよ、時間過ぎるのは早いですね」と話す。

入浴あがり「少し水分をお口に入れましょうか」と声かけをすると「そうね、いただくわ」砂糖トロミさ湯を50cc経口摂取。「おいしいわ」「ありがとうね」と話される。

「おはようございます」としっかり開眼して応えてくれる。

りんごトロミ50ccの一口目しっかり咀嚼される。

自らよく噛みその後しっかりゴックンと飲まれる。

「かんでるのですか?」と聞くと「そうだよ、かむと味が出るわ」と話される。

50cc摂取終わったところで「もう少しちょうだい」と50cc追加。

計100ccゆっくりと咀嚼しながら飲まれる。

「ええりんごだったね」と笑顔で答えられる。

りんごジューストロミ50cc摂取「ええりんご買ったの?」「味がしっかりしているから」「でもあんまりええりんご買わんでええのよ、私のためにもったいないわ」と話され「ティッシュちょうだい」と手に2枚渡す。鼻をかんだり、しっかり「痰があるわ」とお腹に力を入れて痰を出し、自らティッシュでと取られる。

昼食時、食堂にて、りんごジューストロミ100cc摂取されたのち、注入食。

「ここはどこ?」と話され「食堂で皆さん昼ごはん食べてます」と返答すると「昼の雰囲気だね、皆は何を食べているの?」「今日はうどんです」「いいね、うどん食べたいわ」と話しはすすみ「うどんの出汁少し食べますか?」と尋ね「少しちょうだい」と返答。

うどんの出汁100ccトロミを付けて1口目「かつおきいてるね、少し、しっかりした味ね」

2口目「しょうゆが濃いかしら?塩が多いかも?」少し薄めて3口目「これでちょうどいいわ」と会話しっかり取りながら、嚥下良好。表情良く、時々周囲の音、声に反応し「従業員のお昼はあるの?」と気をつかって下さる。

平成24年3月

昼食時、初めてのミキサーの粥を摂取。

「お粥ですよ」と声をかけると「本当に?? どれ? 見せて…」と言われ、見て頂くと「本当だわ…」と笑顔。一口目「あら!塩か梅しか入ってないの?」と話しながら、約20cc分を摂取「お腹いっぱいになるねぇ」と話される。

居室にて口腔ケア行う。舌の体操をして頂き舌を前に出す事はできている舌に力も入っている。

平成24年4月〜5月

朝の訪室時よりしっかり開眼され、にこやかに「おはよう」とあいさつされる。腰痛のため右側臥位 拒否。「ココアもってきて」と言われ、続けて「温かいのを…ね」と。

ホットココア100cc摂取。「梅もってきましたよ」と伝えると「今日は食べてみようか」と言われ、ねり梅(南高梅)のパッケージをしっかり読みながら「やっぱり肉の厚い梅は南高梅に限るね」と話しながら、お粥一杯分 全量摂取。

朝より穏やかに目覚められ、会話良好・経口摂取良好。

昼食時えんどう豆のスープ120cc摂取。朝もほうれん草のスープ150cc摂取。

「栄養ついちゃって グーッね」と話される。

昼食後、「天気いいですよ!春の風あたりに行きますか?」と話すと「行く!!」とすぐ返答。玄関口より出るなり「わぁ〜いい風だね」と一言。

陽のあたる所に出ると「眩しくって目が閉じちゃうね」「この風は今しかないわね…」と話されながら、花を見たり、空を見上げたり10〜15分位、外気浴しました。

帰りには「あなたが車を押してくれるから行けるんだわ“ありがとね”世話かけるね」と話される。

朝は目覚め良好。8:00すぎ訪室。声かけにて開眼され、開きにくい左目はご自分の手で目の下へと引っぱり開眼してもらい「あっ見えた。おはよう」と話される。

以前より希望されていたごま豆腐にわさび醤油をかけて…。

一口目「わぁ わさびだね もちもちしてるね おいしいわ!」と表情ゆるめて笑顔で話される。

「私、いつから食事するようになったのかね…?」

「食べれるといいね おいしいものいっぱいだもん」と話される。

コーンクリームスープ150ccを一口一口しっかり食べられ「あなた もういいわよ 行って…」と話される。表情はとても穏やか。「又、明日ね…」と退室のあいさつをすると「あさっても…」と返される。

平成24年8月

家族様よりミキサー粥をもう少し形のある粥を食べさせてあげたいとの希望あり。

朝食時「待っていたわよ」と迎えてくれ、ミキサー粥の一口に「お粥がいいわ」と言われる。

粒上のお粥を更にスプーンでつぶし、細かくした状態で、お茶碗1/3杯摂取。

「おいし〜い」と笑顔で話され、「よく噛んで下さいね」の声かけに「うん」と頷きながら、一口を何度も、何度も、よく噛んでおられ、しっかり飲み込まれる。「好きな焼肉よりおいしいわ〜」と話される。

昼食 「お粥、上手に炊いて」と話され、卵粥(レトルト)粒が細かく、卵もきめ細かく温めて食べて頂く。一口目「おいし〜い。上手に炊いたな…」と話され、しっかり噛み、しっかり飲み込まれ、一口一口おいしそうに、お茶碗一杯 ゆっくりと食べられ全量摂取。「うれしいわ、ごちそ〜さま」と終始笑顔でした。

15:15 訪室すると、手招きをされる。

「何かあるの?」と話され、「アイスクリームありますよ」と答えると「うそ!食べてみようか、ちょうだい!」と返答される。

バニラアイスクリーム スプーンにて4口摂取。

一口目「冷たくておいしいね。スーッとするわ」「ありがとね」と話される。

「今日は、お粥にアイスクリーム、何年ぶりかに食べられましたね!記念すべき1日です!」と話しかけると「そーだわ! 本当に嬉しい! 何かに書いといて…」と話される。

本日、第9回目の納涼祭。

盆踊りに参加され、音頭も一緒に歌われ、手も振って楽しまれました。

食べ物もおでんの大根をつぶして召し上がって頂き「おいしいわ〜」と話され、ゲームも見ていただきましたが、参加はされず、「ありがとう」と言って下さる。

「花火上がってますよと」と言うと「本当?」と花火を探されましたが、少し遠い所だったので見えなかったと思いますが、笑って頷いていました。

入浴あがり、「アイスクリームどうですか?」と伺うとニッコリ笑われて

「いいね〜、ちょうどいいね…」と話され、自室にてバニラアイスクリーム

100㏄用意し容器を見て頂くと「あら〜冷たい。早く食べよ。あなたと半分ね」

と話され、一口一口ごとに「爽やかだねー」とあっという間に食べられました。

時折、「あなた食べてよ」「食べたの?」と気を使われていました。

朝食時「おはよう、ご飯できた?」と話される。

「あさりだし粥です」と言うと「そう!おいしいよね〜」と

一口、口に運ぶと「どれ、かして、私が食べるから」と手を差し出される。

一杯分しっかり食べられ「もう食べちゃったよ」「あなたが前に見せてくれた粥でしょ」とよく覚えていらっしゃる。「美味しそうに食べて頂けるので、ほしくなるわ」と話すと「だって美味しいんだもん。顔だってそうなっちゃうわよ。

あなた、食べたくなったのね。今度は一緒に食べましょ!」と話される。

 当施設入所時は、朝・昼・夕の注入食であったが、今では、朝・夕の注入食になり、まもなく一日一回だけの注入食になる日も近いでしょう。

今では、胃ろう食は、補助的な役割になっているのではないでしょうか?

おわりに

胃ろうであっても、経口摂取能力を取り戻すことができる。

人間の再生能力は素晴らしく、90歳を超えても、また胃ろうでの栄養摂取が2年に及んでも、経口摂取に成功するケースがある。誤嚥性肺炎を予防するためには、日常的な口腔ケアが大切であり,当施設では歯科衛生士・看護師・介護士が協力して1日3回の口腔ケアを実施している。

また、味覚や食感を引き出すためにも、口腔ケアにより、正常で清潔な口腔機能を維持・向上させる必要がある。

人が口から食物を食べるという営みは、生きるための単なる栄養補給だけではなく、人問の基本的欲求であると共に精神的な支えのひとつでもある。

平成22年8月  胃ろう造設。

平成23年9月  当施設入所。

平成23年11月 両下肢が動くようになる。

平成23年12月 ベッド上の生活からリクライング車椅子に移乗できるようになる。

平成23年12月 コップにて口先でのうがいをされる。

平成24年1月 仰臥位を含めた体位変換ができるようになる。

平成24年2月 経口摂取できる。

摂食機能訓練時間の 総合計 397,35時間

(口腔ケア 182.5時間) (舌下運動 121.6時間)

(両上・下肢可動域訓練週 4日 48時間)

(嚥下トレーニング 平成24年2月まで 45.25時間)

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